大学時代のささやかで美しい思い出

僕が大学2年、ちょうど今くらいの時期だろうか。5限目の講義後のことだ。その講義はチームでなんか色々する、キャリアについての授業だった記憶がある。今の僕だったら絶対に取らないだろう(必修だったのかも)。自分でも驚くが、僕は比較的、外向的な気質みたいである。

講義後、他の学生たちが談笑する中、僕はさっさと講義室を去り、講義棟5階からせっせと下り、性的なまでな熱気が支配する講義棟を出た。秋夜の冷たい空気を吸いながら、「(夕食は)コンビニで済ませるかあ」などと考えていると、後ろから僕を呼ぶ声がした。

「代助くん、ああ、よかった」

振り向くと、さっきの講義で同じチームだった女の子がいた。なんだろう、なんかやらかしたかな、と思いながら応答すると、彼女は息を切らしながら

「ああ、良かった。もう帰っちゃったかと思って。はいこれ」とスティック糊を差し出した。その日は糊を使う講義で、僕はそれを講義室に置きっぱなしだったのだ。

彼女はまだ息を切らしながらも笑顔だった。そのときの彼女が、今まで見たことがないくらい、美しかったのである。客観的に見れば美人でもなく、不美人でもないのだが、本当にきれいだった。まるでステンドグラスから差し込む光のような、神聖な美だった。ひょっとしたら、夜で照明がよかったし、秋だったからかもしれない。その後何か話したのは覚えているが、内容は覚えていない。

その後ヨタヨタとアパートに戻り、コンビニ弁当を食べているときも、ウイスキーを飲んでいるときも、図書館で借りた本を読んでみても、彼女のことばかり胸に浮かんでいた。

それから数度、彼女と挨拶をしたりしたが――どれも笑顔でしてくれた。それに比べて僕は無愛想だったかもしれない――それきり疎遠になってしまった。連絡先も交換していたが、ランチに誘おうなんてこともできなかった。

 

 

以上こうやって書いた理由は、こういう良い記憶は、書き留めて置いたほうがいいと思ったからである。こういうと語弊があるかもしれないが、僕はあまり過去を重視せず、すぐ忘れてしまう。なので、『ハリー・ポッター』でダンブルドアがやってたみたいに、言葉という魔法の杖で、抽出してみたかったのだ。