2017年に読んでよかった本3冊

 

推測と反駁-科学的知識の発展-〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

推測と反駁-科学的知識の発展-〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

 

 いきなり哲学書です。20世紀の科学哲学者、カール・ポパーの著作です。

科学とは検証可能な命題である、という論理実証主義の主張を吟味し、科学とは検証不可能なので反証可能性があることが科学の基準である--みたいな話しです。ここで解説するのは難解でしょうし面倒なので割愛します。

でも今年のはじめ頃から本書を精読したので、割りと思い入れのある本です。

 

 

人間の絆〈上〉 (岩波文庫)

人間の絆〈上〉 (岩波文庫)

 

 次は文学、小説です。友人から勧められて読みました。彼は親切にも原典をくれました(原典はチャプター1でやめました)。イギリスの小説家ウィリアム・モームの作品です。

岩波の和訳では上・中・下ある大長編です。教養小説(ビュルディングス・ロマン)というのを読んでみたかったので読みました。教養小説とは端的にいうと、主人公が成長していく物語の小説を指します。ワンピースを代表とするようなジャンプの漫画みたいなもんですね。

でもそんな夢のある話でもなくて、世俗的に、かつ人間って本当に滑稽だよなあっていう話です。「こういう人いるいる」と思うような荒唐無稽な人々が英国らしくシニカルに描かれています。

20世紀初頭の英国も2017年の日本もそんな変わらないなあと度々シニカルな気持ちになりました。僕は皮肉の笑いが好きなのです。

 

特に悪女、ミルドレッドがこれまたすごい。女のイヤな所だけ寄せ集めたような人物です。

 

和訳は中野好夫(新潮)と行方昭夫(岩波)があります。文体は前者は落語っぽい、後者はなんだか村上春樹みたいです。僕的には行方訳がおすすめ。

 

 

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
 

 最後にジョナサン・ハイト、原題はThe Righteous Mind(正義心)です。つくづくアメリカの学者って正義が好きよなあ。

著者が本書で伝えたい事を端的に言えば「私たちは皆、独善的である(20頁)」ということです。その実例として政治、宗教が出てきますが、本旨は「私たちは皆独善的である」です。ハイトはその人間心を〈正義心〉としたうえで、心理学、生物学、政治学などの経験科学、そして哲学の知見も踏まえて分析しています。哲学史の知識やリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を予習してからの方がすんなり読めそうですが、おそらくそれらの教養がなくても読めるでしょう。

人間の正義心とは――20世紀まで主流であった――構築されたものではなく、本質的なもの、所謂人間本性 (human nature)であるとしています。かつ、理性とは情動を基盤にしていて、ハイトは「情動は象で、理性はその象の乗り手」、「理性の尻尾を振る直感的な犬」、「道徳とは味覚みたいなもの」など秀逸な比喩を用いて説明しています。

本書を読めば、自分とは異なる道徳基盤(俗に言う価値観)を持つ他者を理解する一助になるでしょう。

 

以上、適当に紹介しました。図書館や本屋で是非手にとってみてくださいね。